ラスト・ジョーカー

*第五章 二人のひとりぼっち 9*



 もやの中に入ると急に体が重くなった。



 息は問題なくできるのに息苦しい。


「力」そのものがその場に充満しているような、そんな感じがする。



全身に上から圧力をかけられたように、気を抜けば地に膝をつきそうになる。



 それを懸命にこらえて、エルは前へ進む。


進むごとに、自分の中から何かが抜けていくような感じがする。


だんだんと体が重くなってくる。


黒いもやに、生命力を吸い取られていくのがわかる。


 エルは薄く笑った。


 いいんだよ、ゼン。あたしの命がほしいなら。



「あなたに、ぜんぶあげる」




――なあ。



 ふいに男の声が聞こえて、エルは足を止めた。



――あんまり泣くなよ。きっとすぐによくなるよ。



 知らない声だ。なんだろう、と思っていると、次に女の声がした。



――そんな気休めいらないわ。今は治療法がないって、お医者様が言ってたもの!



 今度は知っている声だった。――芽利加の声だ。



――あなたを死なせたりしないわ。絶対に。



 ああ、とエルはため息のような声を漏らした。


芽利加があれほどまでに不老不死を手に入れようとしていたのは、このためか。



 大切なひとを死なせないためだったのか。



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