ラスト・ジョーカー



 エルの顔が見たい。そう強く思った。


とたんに辺りを覆ったもやが晴れていく。



――歩き続けて、あなたの唯一を見つけて。



 ばかだな、と、ゼンは思った。二人とも、ばかだな、と。



 自分もばかだ。大切なことを、まだ伝えていなかった。


エルもばかだ。そんなことに気づかないなんて。



(なあ、エル。おれはもう見つけたんだ)



 百年生きて、やっと見つけた。


世界でいちばん大切なもの。


何よりも尊いものを。



 闇が割れて、光が射し込んだ。


いつの間にか、朝になっていたようだ。



 視界がすこし明るくなって、薄い闇の中に、白い手が見えた。



 ゼンは手を伸ばし、その白い手を握る。



 そしてそのまま握った手をぐい、と引っ張って。



 エルの細い体を、強く抱きしめた。



「ばーか」



 ささやく声が震える。

腕の中にすっぽりと収まる温もりが愛おしくて、鼻の奥がツンと痛む。



 腕の中で、エルが震えた。


肩のあたり、ちょうどエルが顔を埋めたところがじわりと湿る。



「おれの唯一なら、ここに」



 嗚咽をこらえる小さな頭を撫でて、ゼンは笑った。



「もうとっくに、見つけてる」


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