ラスト・ジョーカー



 訊かれたエルはカンパニュラに視線を移す。


 スメラギがこう訊いてくるだろうことは予想していた。



「カンパニュラは、どうして死にたいの?」



 エルは静かに尋ねた。


訊こうと決めていたことを、そのままに。



 カンパニュラはふふ、と笑って、首を傾げる。



「それは、面接かしら?」



「……うん、そう。答えによっては、秘術を使ってあげない」



 もし、カンパニュラがゼンと同じなら。


一人おいていかれる寂しさに耐えかねて死を望むなら。



 それならエルは、カンパニュラにまだ、生きていてほしい。



「そうねえ……」



 カンパニュラはすこしだけ考え込むそぶりを見せて、だがすぐに答えた。



「べつに、絶対今すぐ死にたい、ってわけではないわ」



 その答えに、スメラギがすこしだけ驚いたような顔をする。



「でもわたし、もう満足しちゃったの。息子も大きくなったし、心配がまったくないと言えば嘘になるけど、思い残すことは何もないのよ」



 それに、と、カンパニュラはいたずらっぽく笑って続ける。



「わたし今、百二十七歳よ? 大往生だわ。だからまあ、死なせてもらえるなら、ぜひお願いしたいわ」



 そう言って笑うカンパニュラの顔は、本当に晴れやかで。だから。



「……わかった。歌うわ」



 泣きそうな顔でエルは頷き、大きく息を吸い込んだ。



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