ラスト・ジョーカー

４

＊第二章 世界の形　４＊



　結局エルの獲ってきた川魚と野鳥で朝食を済ませた二人は、すぐに〈境界〉を目指して歩き出した。


そして、三十分足らずでたどり着いてしまった。



「本当に、すぐそばだったのね……」



　それなら昨夜のうちに、〈境界〉を越えてしまえばよかったのにと、エルが呟くと、ゼンに聞こえていたようで、


「昨日あのまま〈境界〉を越えてしまっていたら、結界の外で夜を明かすことになっただろ。

結界の内側に留まって〈トランプ〉に見つかる危険性を高めるより、結界の外で夜営することのほうがよっぽど危ない」


　と、応えが返ってきた。




　エルは訝りながらも、結界の外に目を凝らして、「外になにかいるの？」と訊いた。



　だが、ゼンはそれには答えず、結界に右手をかざすと、「夜になればわかる」と言う。


そのとき、ゼンが手をかざしたところから、結界が青白く光りはじめた。


エルは息を飲んでそれを見つめた。




　結界はみるみるうちに、水が流れるように消えていき、ゼンが通れる程度の穴が空いた。



「………………なに、今の？」


　ぽかん、とした顔で、エルは訊いた。


ゼンは軽く手を払うと、なんでもないことのように、



「ＰＫで結界を消しただけだ。ぼさっとしてないで、行くぞ」



　と言って、歩き出した。


エルもその後に続いて、おそるおそる〈境界〉の外へ踏み出す。


下草の生い茂る森は結界を境に、まるでそこから世界が違うかのように、砂の大地に切り替わっていた。


砂漠の大地を一歩踏むと、エルの履いた底の浅い靴が柔らかい砂にズルズルと飲み込まれた。


それを慌てて引き抜くと、靴の中に砂が入って気持ちが悪かったので、エルは靴を脱いで裸足になった。


ふと背後を見ると、結界の穴はいつのまにかふさがっていた。