ラスト・ジョーカー




 だが。


自分がなにをした。


突然初対面の人間に石を投げられ、化け物だと言われるほどの何かを、自分はしたのか。


たしかに見た目は化け物かもしれない。ひとではないかもしれない。




 それでも、人の心を持っているのに。




 エルは胸の内で荒れ狂う言葉を、黙って飲み下した。


だてに五年も見世物をやっているわけではない。


この五年間で、こんな扱いはいくらでも受けてきた。




 いつか、ローレライに「腹が立たないのか」と問うたことがある。



ローレライは「慣れた」とだけ言ったが、その目が暗い光を湛えていることに、エルは気がついていた。




 どれだけ長く、多く、屈辱を受けてきても、ひとの心がある限り、それに慣れることなんて、ないのだと。




 騒ぎを聞きつけて、慌てた支配人と警備員がやって来るのと、パシャリと音がしたのとは、ほとんど同時だった。




 なにが起きたのかと、エルは顔を上げた。檻を囲む客の、いちばん外側。


数人の客がずぶ濡れになって立っているのが見えた。




 そしてその奥で、からっぽの桶を抱えたローレライが、どこか虚ろな笑みを浮かべているのが見えた。



「あなた、たちは」



 水底よりも低い声が響く。



「化け物を、見に、きたのではないの?」




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