ラスト・ジョーカー

*第一章 この命は誰のもの 2*



 夜が明けて空が明るくなってくる頃、歓楽街の者は酔っ払いの客を帰らせ、店を閉めて眠る準備をはじめる。



 エルは檻に背をもたれて、頭上の空を見上げた。


檻から腕をめいっぱい伸ばしても届かないほど高くて、頭が通るかも怪しいほど小さい。


そこから見える空を眺めながら、ローレライのことを考えた。



 五年前、記憶をなくしてさまよっていたエルを、支配人が見つけて見世物小屋へ連れていったとき、ローレライはもうそこにいて、死んだような目をして檻の中で生きていた。



 なめらかな白磁の肌に、ゆるく波打つ海色の髪をもつ彼女は、腰から下に足がなかった。


あったのは、魚の尾とひれだ。




「人魚」というのだと、彼女が教えてくれた。


ある研究者が、五百年ほど前の童話を偶然見つけて、そこに登場する人魚を模して彼女を造ったのだと。



 人間に恋をし、最後には海の泡になる人魚姫の話。



 わたしは、姫でもなんでもないけどね。


ローレライはそう言って自嘲的に笑った。




 彼女は二十年ほど前から、この見世物小屋にいるという。



 そしてもうすぐ、その命は尽きる。




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