ラスト・ジョーカー



「あっちにまっすぐ行ったあたりに、〈ハナブサ〉へ向かう大きな隊商が野営してるわ。

うまく隊商の仲間に入れば、〈ハナブサ〉へ入るときの検問でかくまってもらえるかもしれないわね」



 それを言うと、カンパニュラはゼンがなにか言うよりも早く「それじゃあね」と一言残して、煙のように消えてしまった。



 残されたゼンは少女の消えた空間を呆然と眺めて、「なんだったんだ、いったい」と、小さくぼやいた。



(だが、いいことを聞いた)



 実を言うと、カンパニュラの言うとおり〈トランプ〉による〈ハナブサ〉の検問をどう突破しようかと思っていたところだ。


大きな隊商ならどこのエリアにもそこそこの信用があるし、荷をすべて検査するには時間がかかるので省略されることも多い。


商品の箱の中にでも隠れさせてもらえれば、検問官に見つからずにすむこともある。



 カンパニュラの言葉を鵜呑みにするわけではないが、その隊商を探しに行ってみる価値はある。


そうと決まれば早くエルのところへ戻って、日が落ちる前に隊商を探し出さなければ。



 ゼンはボトルを詰めたかばんを右肩から斜めに掛け、きびすを返して来た道を戻りはじめた。




< 89 / 260 >

この作品をシェア

pagetop