愛を知る小鳥
「香月! しっかりしろ!!」

「いやっ、いやっ! 来ないでっ!!」

「美羽っ! 俺だよ! 大丈夫だ。大丈夫だからしっかりしろっ!!」

激しく揺さぶられながら名前を呼ばれてハッと覚醒する。けれども今がどういう状況なのか脳が全く処理できない。呼吸は乱れ、全身から汗が噴き出しているのがわかる。

「大丈夫か? 俺を見ろ」

そこで初めて目の前にいる人物に気づいた。

「せ、んむ…」

美羽は驚愕の顔で潤を見つめた。何故彼が目の前にいるのか、何が起こっているのか全くわからない。

「ひどくうなされてたんだ。だから悪いとは思ったが起こさせてもらった」

「ど…して…?」

「エレベーターの中で倒れたんだ。病院に行くことも考えたが、俺の判断でうちに連れて来た」

「エレベーター…」

その言葉でぼんやりと記憶が蘇ってくる。今日は今井さんと楽しい時間を過ごしたはずだ。そして帰ろうとエレベーターに乗り込んだ後に真っ暗になって…

「あ…ぁ」

記憶を辿るごとに美羽の表情が青ざめていく姿を見て、堪らず潤は彼女の体を引き寄せた。

「大丈夫だ。何も問題はなかった。何も気にしなくていいんだ」

あの時と同じように腕の中で震える美羽の背中をさすり続ける。緊張で強ばる彼女の心と体を、根気強く解すように。拒絶されるかとも思ったが、震えつつも美羽はじっとその行為を受け入れていた。
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