だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版

焦燥...ショウソウ






物腰が柔らかで優しい顔つきをしていた湊。

女の人が周りにいるのが当たり前だった。


もちろん、湊は周りの女の人に特別な感情なんて一切なかったけれど。

それでも、近くに誰かがいるという事実が、私を非道く不安にさせた。




湊は本当に大切なことは、私にしっかり伝えてくれる人だった。

けれど、私が不安になっているのを知っていて、私を安心させる言葉をくれることはなかった。

余程切羽詰っていない限り、私が何を言ってもよく『だんまり』をして誤魔化されていた。



それがとても嫌だった。

はぐらかされてしまいそうで、私は不安に想っていることを簡単に口にすることすら出来なかった。



とはいえ、顔に出やすい私を見れば、全てわかってしまったのだろう。


それほど近くで見ていてくれたのだと、今ならわかる。




『桜を見に行こうか』




私があまり笑わなくなると、湊はいつも外へ連れ出そうとした。


例えばそれは、

季節を感じる為だったり、綺麗なものを探しに行く為だったりした。



私は、湊が見せてくれる儚くも美しい物達がとても好きだった。

それは、特別に綺麗な物を探すのが好きだったわけではないと想う。




湊が隣にいる景色が、私にとって特別な景色だったから。





私よりも少しだけ高い肩。


やわらかい髪。


小さな耳。


薄い色素の瞳。


長い睫毛。


細い身体。


大きな手。


低くよく響く声。





飾らない姿の湊を知っている私は、そこで呼吸をしている湊を感じているのが好きだった。




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