だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





「想ったことは、すぐにしないといけないよ。明日想うことと、今日感じていることは違う。僕は、今から、時雨と、桜が見たい」




明日、想うこと。



今日、感じること。




この人は、本当に変わらない。

心の奥底はいつまでも真っ直ぐで、自分の想いに素直なままの湊。

もう大人になってしまっているのに、こんなにも純粋でいられることは。

とても素敵なことに想えた。


本当は、沢山の表情を持っているのかもしれない。

けれど、私の前で見せる顔を、湊は人前では絶対にしない。




今、目の前にいる湊が。

私の知っている湊の全てなのだと想った。




「わかった。私も、今、湊と行きたい」




そう言った私を見て、湊は満足そうに頷いた。

瞳に私を映したまま、そっと私の右手を握りながら。


寒くなるといけないので、羽織を一枚持っていくことにした。

小さな鞄には、いつも持ち歩いている折り畳み傘を入れた。



きっと、今日、雨は降らないだろうから傘なんて必要ないのだけれど。

それでも、そうすることが二人にとっていいことに思えた。



十分くらい歩くと小さな公園がある。

たしか、大きな桜の樹があったはずだ。




きっとそこに着いたら、何も言わずに二人で桜の樹を見上げるのだろう。

そして私は、何を不安に想っていたのかさえ思い出せなくなるだろう。




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