翼~開け放たれたドア~
「……流雨」

…え、なに。“ルウ”って。

首を傾げると、なぜか男はもう一度「……ルウ」と呟く。

「……俺の名前だ」

「…流雨」

「我が主がつけてくれた名前だ。
…あの方は本当は優しい」

敬語じゃない普通の喋り方に、本音なんだと知る。

「……あの方は、変わってしまった…」

「…そうか」

「……憎まないで、やってくれ。
あの方は、こうするしかなかっただけなんだ」

「……保証はできない。
だが…気持ちだけは分かってるつもりだ」

「……ありがとな」

男…、流雨は私に軽く頭を下げると、踵を返して歩いていく。

その後ろ姿を見つめながら、なんだ、あいついい人かもしれないな。と考えていた。

そして私は、思い出したぶんの過去を言うことを決めた。

逃げないためにというのもあるけど、もしもの時、私は帰れなくなるから、今のうちにと思ったから。

終止符をうつんだ。

もう、誰も傷つけたくないから。
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