翼~開け放たれたドア~
「助けて…っ!いやぁ!!」

「春輝っ!!」

お兄ちゃんに必死に手を伸ばしたけど、それは届かなくて。

お兄ちゃんの顔と声は、押し込まれた車の真っ黒なドアに遮断された。





思えば、知らない人に近づかれるのがダメだったのは、これが原因だったからなのかもしれない。

お母さんとお兄ちゃんが深く関わっていたから。

人一倍お兄ちゃんに懐いてひっついていた私は、お兄ちゃんと離れてしまった事実と、お母さんを殺してしまったという事実を信じたくなくて。

だから、お母さんを忘れ、その上お兄ちゃんのとお父さんを入れ替えた偽りの記憶を塗り重ねて、思い出さないようにしていたのかもしれない。

もう今となっては、今の憶測が正しいのか、前までの考えが正しかったのかはわからないけれど。
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