明日、嫁に行きます!


「え? まさか」

 大きく目を見開いて、彼を仰視する。

「ええ。僕は鷹城総一郎《たかじょうそういちろう》と言います。名前を言えば、理解してもらえますよね?」

 ――――僕が何を言いたいのか。

 にっと片唇をつり上げながら、追い詰めた獲物を前にどういたぶってやろうかと嗜虐に嗤う男・鷹城を、私は驚愕の眼差しで見つめる。

 この男が、まさか……私の夫になるとか言う!?

「むりむりむりむりっ!」

 私は両手と頭を大きく振って拒否した。

「……貴女、たいがい失礼な人ですね」

 ムッと不機嫌さを露わにして睨まれても、無理なものは無理ですから。

「とりあえず、車に乗ってください。話は後で」

 そう言って、鷹城さんは助手席の扉を開けると「早く乗りやがれ」的な眸で脅してくる。

「……わかったわよ」

 何かとんでもない誤解があって、こんな事態に陥ったに違いない。
 なにせ初対面の印象が悪かった。彼の横柄な態度に腹を立て、笑顔のままずっと睨みつけていたんだから。
 きっと彼の中で、私の印象は最悪なはず。あれだけ無礼で生意気な態度をとってたんだから、普通に考えても私を妻に望むとかあり得ない。
 だから、予期せぬ不測の事態が起こったんだと私は考えた。
 もしかして、あの時の報復、嫌がらせなのかと、そんな不安が頭を過ぎる。
 私は頭を振って不安を追い出し、よしっと自分に活を入れた。
 とにかく、どうしてこんなことになったのか詳しいことを聞かねば話は進まない。
 私は不安を押し殺し、覚悟を決めて車へ向かおうとしたんだけど。
 訝しむ顔を鷹城さんへと向けた浩紀が、私の肩をグイッと掴んで引き留めた。

「おい、寧音。大丈夫なのかよ、着いていって」

 瞬間、表情の乏しい鷹城さんの顔に冷たい怒りが宿る。荒々しく大股で近付いてきたと思ったら、浩紀の腕を叩き落とし、私の背中に手を添え車へと歩き出した。
 そして、温度の消えた冷たい双眸で浩紀を一瞥すると、

「ご心配なく。彼女は僕の妻になる女性。気安く触れてもらっては困りますね」

 鷹城さんは牽制するように言い放った。
 いきなり投下された爆弾に、私達の口はあんぐりと開いたまま。
 そんな私達を見比べて、鷹城さんの顔に底意地の悪い笑みが浮かぶ。

「は、はあ!?」

 愕然とした表情で顔面蒼白になる浩紀を置いて、素早く私を助手席へと追いやった鷹城さんは、もう用はないとばかりに車を発進させた。
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