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夜の匂いに

■ □ ■ □



その夜は約束通りそのまま貴一さんの部屋にお泊まりすることになったわけで。

前回はソファでふたりとも寝ちゃったから、今回初めて貴一さんちの寝室に入るわけで、なんだかとってもドキドキ。

……ドキドキのはずなんだけど。



「ごめん、散らかしたままだからしばらく片付けてていい?」

なんて貴一さんが色気のないこと言い出した。


「いいけど、あたし散らかってても気にしないよ?パンツとか落ちててもスルーするし」

「落ちてないよ!まったく奈々ちゃんは僕のことなんだと思ってるの……」


散らかってても大丈夫と言う私に貴一さんが呆れたように言い返す。

落ちてないんだ、パンツ。


(あたしのママは着替えた後とかに結構落としてるけどなぁ)

そんなことを思ったけれど、身内の恥なので口には出さない。



「じゃあ、いいって言うまで開けないでね!」

「はいはい」


念押ししながら部屋に閉じこもる貴一さんに軽ーく返事して見送る。こんなに必死になるなんて、このおじさんは一体どんな環境で寝てるんだろうか……。

軽く疑問。


(エロ本かAVだらけとかかな、でも貴一さんならセフレいっぱい居そうだからそんなの要らなさそうだけど……って、うわっ、考えるだけでそれは鬱だ……)


どうかエロ本でありますように。
なんて、下品なこと考えたり、勝手に傷付いたり。
一人でリビングのソファに体育座りして待機しながらあれこれ考えてしまう。


いつもの広いソファは一人で座ると余計に広く感じる。こんなに広いんだから伸び伸び座れば良いのにとは思うのだけれど、体育座りしてないとなんだか落ち着かない。


(寝室に入れてくれるってことは、つまり一緒に寝るってことだよね……)


なんて今更自覚して顔が熱くなる。
一緒に寝るのなんてもう初めてじゃないのに、なんだか無性に恥ずかしくなる。
恥ずかしいし、緊張しちゃうし。意識し出すと止まらない。


「あー」とか「うー」とか、うんうん唸りながら膝をぎゅっと抱える。

その時。

ブブブッと、テーブルの上で貴一さんのスマホが震えた。

「うぉっ!?」

大っきい音が立ってびっくり。
無造作に置かれたままの貴一さんのスマホは電話が鳴ってるみたいで、画面が光ってる。

いけないことだったけど反射的に顔をのぞかせてしまうと、そこには『松嶋やよい』の文字。


(またこの人っ!!)

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