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「こんにちはー」

「あら、奈々子ちゃん。いらっしゃい」


駅前のお花屋さんに入ると、お店のおばちゃんがにこりと笑いかけてくれた。


「おばちゃん、桃の花下さい」

「桃の花ね、ちょっと待っててね」

「はーい」


花を包んで貰っている間、私はお店のなかのお花をぼんやり眺めてみる。

色とりどりのお花に、青々とした観葉植物。


(あれ、これって……)


ふいに見覚えのあるものが目に留まる。
そこにあったのは、へんてこな観葉植物。貴一さんの部屋にあったのと同じのだ。



「"がじゅまる"……?」

「それね、精霊が宿るって言われてる植物なの」


ガジュマルと書かれた名札の名前を思わず読み上げると、お店のおばちゃんがそう教えてくれた。
精霊が宿るだなんて、なんだか不思議。


「とっても育てやすいから人気なのよ。小さいサイズもあるから奈々子ちゃんも育ててみたら?」


そう言って小さいサイズのガジュマルも見せてもらった。小さな方もへんてこな形をしていたけれど、小さいから可愛らしい。



(欲しいなぁ)

と、ぽつりと心の中で零す。
貴一さんのことを抜きにしても、このなんだか愛らしい観葉植物が無性に欲しくなった。

けど、


(……けど、こんなの買ったらあたし貴一さんのストーカーみたいだし……)



そんな風にネガティブなことを思ってしまい、結局買ったのは桃の花だけ。

ガジュマルを買う勇気はなかった。




(あたしの臆病者……)


帰り道を歩きながら、深く溜息。

こんな些細なこと気にするとか本当に私らしくない。

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