1641




「僕は奈々ちゃんより先に死ぬよ」


貴一さんがぽつりとそう呟いた。
その言葉に、私は思わず息を飲んだ。


「歳をとるってそういうことだ。
そのうち……ある日突然、元気でいれなくなってしまうことだってある。

うちの親父のように急に倒れることも、シキさんのようにものを忘れてしまうこともある……。僕は奈々ちゃんより先に死ぬし、そのうち奈々ちゃんのことを忘れてしまうかもしれないよ」


そう言って貴一さんは私に現実を突きつけた。

それは、16歳の私と41歳の貴一さんの間にあるどうしたって変えようがない現実で、いつかくる未来。




「それでも、あたしは……っ」

「違う……奈々ちゃんが信用できないんじゃないっ……僕は、僕が自信がないんだ。

僕は、君にずっと好きでいてもらえるだけの人間じゃない……」


貴一さんが自嘲気味に笑ってそう吐き捨てた。その言葉に私は、いっぱい首を横に振った。そんなことない!って。



「……あたし、貴一さんのこと好きなの」


かっこいいところも。
ダメなところも。
時々おじさんくさくなるところも。
狡いところも。
そして、とても優しいところも。

全部、全部大好き。


「だからね……、自信がないって言うなら……あたし笑うから。やっぱり間違いだったなんて貴一さんが後悔しないように……。

貴一さんが亡くなるその時まで、ずっとずっと笑ってるから……」



だから、

貴一さんの側にずっと居させてください。



< 216 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop