1641


「え、ほんとに?だってせっかくの正月に……」

「へーきへーき!」




お正月といっても、私の家は親戚付き合いとか無いに等しい。あってもママのお姉さんである叔母さんくらいだ。


お盆やお正月に田舎へ帰省とかしたことないし。毎年お正月はママとふたりで海外旅行。南の島とかで年越している。

一応もうチケットは予約してあるので、もしかしたらやっぱり無理かもって思ったけど。

この事をママに話せば、ママもあっさりOKしてくれた。


「せっかくのチャンスなんだし行ってきなさいよ! チケットのことは気にしないでいいの。代わりに姉さんか、独身の友達誘ってみるから。

それよりも、今度こそキイチさん押し倒すのよ!」


そう言って私を後押ししてくれるママ。押し倒す云々はさておき、やっぱり私のママは最高だ。

そんなこんなで、この年末年始は貴一さんの実家への旅行が決まった訳で……。





■ □ ■ □



「なんか、すごいな……」


事の顛末を森川先生に話し終えると、先生は驚いたような呆れたような顔をして笑う。


「そだね。あたしもまだ自覚ないかも」

そう言って私もへらっと笑う。

年末年始を貴一さんと過すだなんて、それも貴一さんの実家で。まるで夢みたいな話。だから未だにちょっと信じられない気分。


「俺なんて、正月のこと考えるだけで緊張しっぱなしだよ」

「え、正月って……?」

「彼女んとこ。実家に挨拶行くんだ」

「それって……!」




(プロポーズ成功したんだっ!!)

絶対上手くいくって信じてけど、こうして結果を聞くと嬉しくて嬉しくて堪らない気持ちになる。


「先生おめでとう!!」

「おう」


少しぶっきらぼうに返事する先生の表情は、これまで見たことないくらい幸せに満ちているように思えた。


(いいなぁ。高坂さんにも早くおめでとうって言いたい)


貴一さんに内緒と言われたので。貴一さんが社長さんでその秘書が高坂さんだったってことは、先生にも話していない。



だから、高坂さんにももちろん森川先生と知り合いだってことは言えないでいる。

一番におめでとうと言いたいくらいのに、出来なくてもどかしい。

< 47 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop