ヒカリ

二十



「明日どこかに行く?」
結城が訊ねた。

「……そうですね」
奈々子はなんとなくうなずいた。


土曜日の夜。


暗い店内。
半個室のタイフードのお店だ。
タイミュージックが流れ、なんとなく異国にいるような気分になる。


「そっちにいくよ」と言われ、奈々子の近所のお店で待ち合わせをした。
ただし、奈々子はこのお店は初めてだ。


「聞いてる?」

「聞いてます」

「いつ、です、ますがとれるの?」

「さあ」


奈々子は結城を見て思う。

この人、いったいどんなつもりなんだろう。
珠美が「あれは、実質の告白だよね」と言っていた。
そうかな。わからないや。

奈々子は一口、カクテルを飲んだ。


結城はデニム地のシャツに、カーキ色のパンツを合わせている。


女性と言っても通るような、きれいな顔立ちに、男性的な骨格。
憂いを帯びているような表情で奈々子を見る。


落ち着かない。


「俺と一緒に出かけたら、彼氏に怒られる?」

「別れました。知ってるくせに、意地悪ですね」

「別れたんだ。じゃあ、奈々子さんはフリーだ。俺とおんなじ」

「はあ」

「暑いからプールにでも行く?」
結城がさらりと言った。

「は? だ、駄目です」

「なんで?」

「それも察しがつくはずなのに、意地悪ですね」

「わかんないよ」
結城が笑う。

「心臓に悪いから、本当にやめてください」
奈々子は横を向いた。

「ゴメンゴメン。もういじめないから」
結城がほおづえをついて、奈々子を見る。
奈々子は心臓の音を聞かれてしまうのではないかと心配になった。


「そういえば」
結城が携帯を取り出す
「今日試合があったんだった」

「なんのですか?」

「サッカー」

「好きなんですか?」

「まあまあ。結果が気になる程度に」
結城は携帯でネットを開く。
映像付きのニュースにアクセスしたようで、携帯から歓声の声が流れた。

「うわ、くやしいなあ。負けちゃった」

「日本が?」

「うん」

「大事な試合?」

「それほどでもないけど。でも因縁の相手だよ」

「へえ」
奈々子は結城の手元を覗き込む。


画面では相手チームの選手が、全身で歓びを表現して、フィールド内を走り回っている様子が写されていた。


「うれしそう。よかったですね」
奈々子は思わずそう言った。

「負けたんだよ?」
結城が不思議そうに言う。

「ああ、そうだった。あんまりにもうれしそうだったから、よかったなあって思っちゃったんです。日本は次、勝てたらいいですよね」
そう言った。

「だね」
結城が優しく微笑む。

奈々子の心臓はドキっと跳ね上がった。


この調子では、奈々子の身が持たない。
いつになったら慣れるんだろう。
拓海は慣れたと言っていたけれど、奈々子には永遠にそんなことはおこらない気がした。

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