ヒカリ

二十八



最後の段ボールにガムテープで封をする。
それからマジックで「寝室」と大きく書いた。


部屋を見回す。
ベランダに通じる窓の外には、都心の高層ビルが見える。

冬の近い秋。
風の音が聞こえた。


作り付けのクローゼットにも、ベッド下の収納にも、もう何も入っていない。
そのかわり部屋を埋めるように段ボールが置かれていた。
ベッドの上の寝具はそのままだ。
持っていってもしまう場所がない。


ポケットから携帯を取り出すと時間を確認する。
朝八時。
もうすぐ引っ越しのトラックが来る。



本当に長い時間をここで過ごした。
この場所がなかったら、拓海はきっと死んでいた。



部屋を出ると、結城がキッチンに立っているのが見える。
インスタントコーヒーの粉をカップに入れていた。


「飲む?」
結城は拓海を見ると、そう訊る。

「うん」
拓海は頷いた。

コーヒーの香りが漂う。
「ブラック?」

「うん」
拓海は再び頷いた。


片付けたのは自分の部屋だけれど、なぜかリビングもキッチンも、やたらに広く感じる。


結城はこの広い部屋で明日からも暮らしていくのだ。



キッチンのカウンター越しにカップを受け取る。
暖かい湯気が昇るのが見えた。

二人はそのままリビングのソファに座る。


開け放たれたカーテンの向こうに、青空が見えた。
本当に真っ青で、美しい。
黒い鳥が一羽、飛んで行く。


「晴れてよかったな」
結城がカップに口をつけながらそう言った。

「うん」


しばらく無言でコーヒーを飲む。
暖かさが身体の真ん中を通って行った。


「引っ越しのトラック何時だっけ?」
結城が口をひらく。

「十時」

「ゆきさん来るのか?」

「いや、身重だし、向こうで待ってる」

「そうか……」

「奈々子さんは?」
一人になる結城が気になって、拓海はそう訊ねた。

「挨拶しにくるって言ってたよ」

「そっか」

「なんか食べる?」
結城が訊ねた。

「いやいいよ」
拓海がそう答えると、再び沈黙が二人の間に流れる。

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