ヒカリ


ゆきが
「明日のメダル作りしちゃいましょっか」
と拓海に声をかけた。

「うん」
拓海は文具棚から折り紙の束を取り出す。


二人はそれから人数分のメダルを折り紙で作り始めた。

明日はスイカ割り大会だ。
スイカに棒が見事あたった子には、スイカメダルをプレゼントするのだ。

二人は向かい合わせになって、黙々とスイカを折だした。


ゆきとはぎくしゃくすることなく、毎日を過ごせている。
拓海から連絡することはもちろんなく、それでもゆきはすねたり、文句を言ったりするわけじゃない。
いつも通りに仕事をこなし、笑顔で「おつかれさまです」と挨拶する。

結城が「女の子は快楽だけでセックスする訳じゃない」と言っていたが、ゆきは拓海に気のある素振りを一切見せない。
なんだか取り越し苦労だったかなと最近思うようになった。


「できたメダルから、スイカの種書いちゃおっと」
ゆきは油性マジックを持って来て、種をくるくる丸く書き始めた。

「ねえ、それ種おおすぎじゃない?」
拓海はゆきの手元のすいかを見て、思わずそう言った。

「ええ? そうかな?」
ゆきが首をかしげる。

「だって、赤い実がすくなすぎる」

「やりなおし?」
ゆきが困った顔をした。

「まあいっか」
拓海はそう答えた。


ゆきの困った顔は、とてもかわいい。


「いつ、花火屋さんいきます?」
ゆきが種を書きながら拓海に訊ねた。

「いつでもいいよ。休日の方がいいのかな?」

「そうですよね。夜に花火問屋さんってやってるのかわからないし」

「今週の土曜日、一緒にいく? 蔵前とかが問屋街だよね」

「そうなんですか? 知らなかった。土曜日オッケーですよ」

「じゃあ、そうしよう。お昼頃でいい?」
拓海が訊ねる。

「はい。ランチ一緒にしますか?」

「いいよ」
拓海は答えた。

「デートだ」
ゆきがペンを唇にあて、にこっと笑う。


拓海の心臓はどきっと跳ね上がった。


あの日以来、ゆきが笑うと拓海は心穏やかではなくなってしまう。
どうしたんだろうか。

< 26 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop