氷と風
【2】
慌てて口を押さえる私と、先生が口を開くのがほぼ同時だった。
「行くぞ」
そう言って立ち上がったのだ。
「えっ」
私は慌てて彼の白衣の袖を引っ張った。壇上にはまだ発表者がいて、一生懸命熱弁していたのだから。
その発表者を一度見やり、再び私の方を見た彼は一言こう言った。
「思ったより退屈だ」

自分は発表しておいて、他人の発表を聞かないというのはマナー違反なのではないだろうか。
そう思いながら先生の後ろを歩いていたら、急に振り返った。
「随分難しい顔をしているな」
「へ?」
非常に間抜けな声が出てしまい、恥ずかしい思いをした。
そんな私を見ながら珍しく小さく笑うと淡々と放った。
「俺はここに来たくて来たわけではないから」
そしてまた前を向いて歩き出す。
私は何も言わず、ただ彼の後ろをついていった。
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