ヴァニタス
「――果南ちゃん…」

武藤さんが、私の名前を呼ぶ。

「――生きたい…。

――生き、る…」

泣きながら同じ言葉を口に出している私を、武藤さんは抱きしめた。

油絵の具の匂いが、私の涙腺をさらにゆるませた。

「今は傷がひどいから行けないとは思うけど、傷が癒えたら警察へ相談しに行こう?

俺も一緒について行って、事情を説明するから」

そう言った武藤さんに、
「――はい…」

彼の腕の中で、私は首を縦に振ってうなずいた。

私のために泣いてくれて、生きることを望んでくれた武藤さん。

そんな彼を私は“好き”だって思った。

私は、武藤さんに恋をした。

1人の男として、恋に落ちた。
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