スイートナイト
「嬉しい…!」

私は巽の腕に抱きついた。

「ハハッ、抱きつかれたら俺すっげー歩きにくいんだけど」

そんなことを言いながらも、巽はどこか満更でもない様子だった。

記念日の日に、優と一緒に過ごした思い出なんてなかった。

彼はいつも仕事、仕事、仕事で…そんなに仕事が大事だったら、何で仕事と結婚しなかったのって思ったくらいだ。

巽の腕に抱きつきながら歩き出した。

「今日飲みに行くところはさ、俺の行きつけの店なんだ。

ボーイズバー『Tears』って言うところ」

話を始めた巽に、私は耳を疑った。

その名前のボーイズバーって、確か…間違いなく、帝さんが経営している店の名前だ。

静香には、私が巽とつきあっていることを言っていない。

最近は電話もメールもなかったし、会う用事もなかったし…。
< 83 / 186 >

この作品をシェア

pagetop