あたし、猫かぶってます。


 こういう時に、やけに優しくそう言う奏多がむかつく。早瀬みたいに知らねえよって開き直ってくれたら、あたしだって自分の気持ち言えるのに。


 「ーーなに考えてるの?」

 あたしの気持ちを見透かしたように、鋭く光った瞳の奏多は、あたしを睨むように見る。


 「結衣だって、朔くんのこと、考えているじゃん。」

 呆れたようにそう笑って、再びキスをする。


 恥ずかしい。

 キスされていることが恥ずかしいんじゃなくて、自分のドロドロした気持ちを知られているのが、すごく恥ずかしい。


 「俺が佐伯とキスしたら、結衣は俺に関心持ってくれんの?」

 やだ。


 「佐伯と付き合うって言ったら、追いかけてくれんの?」

 やだ。


 「結衣が俺を好きになってくれんなら、佐伯だって利用できるよ?」


 「やだ…っ、」

 切なそうに笑わないで。佐伯さと美と付き合うみたいなこと言わないで。1人にしないでって裏切らないでって言ったの、奏多じゃん。



 「やだ、だけじゃ分かんない。ちゃんと言ってよ。」


 「言いたく、ない。」

 その言葉に、奏多の右眉がピクリと動く。怒っている、奏多。どう接したらいいか分からなくて涙がポロポロと再び溢れ出す。


 「泣いたって、今日は許さないよ。」

 言葉ではそう言うけれど、優しくあたしの涙の拭う奏多。嫌われたくないけど、言いたくない。


 「もう、やだ。全部やだ。あたしには奏多にあれこれ言う資格ないの分かってて、奏多はあたしに言わせようとしてるの?」

 悲劇のヒロイン、のつもりはない。


 佐伯さと美に奏多を取られたくなくて、涙で繋ぎ止めているだけの、物語によく出てくる悪い女にも似ている、今のあたし。


 「うん、俺、優しくないからさ。」

 にこりと、切なそうに笑う奏多が、痛い。



 


 「結衣が苦しむの知っていて、言わせようとしてるし、佐伯と俺の関係を知って、もっと焦れば良いって思ってる。」

 そう言って奏多はあたしに、『言い訳』を話し始めたーーー

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