あたし、猫かぶってます。


 「お、じゃあ付き合うか。」


 「………」


 「やっと1人を選んだか、バカ結衣。」


 「……っ、」


 「今度こそ、キスしていい?ーーーなんて。」





 う そ だ よ

 耳元で小さく呟く早瀬の声に、顔を上げれば。奏多と同じように悲しそうで、嬉しそうな。不思議な表情の早瀬が、あたしの頭を撫でた。



 「気付いたんだな。いや、ずっと言えなかったのか。」

 泣いちゃダメ、泣いちゃダメだと分かっているのに、ボロボロと涙が容赦なく出てくる。こんなの、早瀬に見られたくないのにーー



 「本当結衣は、分かりやすい。」

 優しい早瀬は、あたしを責めない。優しい早瀬は、こうやってキッカケを作ってくれている。奏多も早瀬も、優しくて大好きでーー


 あたしの自慢の2人だった。



 「…っ、キスは、できない。」


 「うん。」


 「…恋愛的なハグも出来ない。」


 「うん。」

 さっきとは真逆で、今度は早瀬が何度も「うん」と繰り返し返事をする。



 「ーーーごめん、早瀬。」


 ずっとずっと、多分ずっと。知らないフリしていたのかもしれない。

 片方を選んで片方が離れるのが嫌で、奏多と早瀬が離れるのが嫌で。あたしはずっと曖昧にしてきたんだ。



 早瀬への感情も、奏多への感情も、本当はずっとハッキリしていたのにーーー


 「ほら、言えよ。」


 「…っ、」


 「お前の気持ちなんて、とっくに分かってるから遠慮すんな。結衣の口から聞かなきゃ意味ねえの。」

 早瀬の言葉に、息を思い切り吸ってーーー思い切り吐く。



 大好きな人に、自分の気持ちを伝える覚悟。






 「早瀬結衣は、秋村奏多が好きです。」

 もう曖昧にしちゃだめだ。傷付けるとか、傷付けないとか、全部ナシにして。

 ーーーだってあたし、好きだもん。


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