ここに在らず。


…なんて思いながらも、私はこの胸騒ぎの原因を分かっている。そう、感じているんだ。私は彼がきっと私を救ってくれる人だと感じている。

そんな期待してしまう自分に嫌気がさした。まだそんな事をしているのかと。先程裏切られたばかりで、だからここにいるというのに。…でも、それでも。


「私とあなたが今日出会った事に、意味はありますか…?」


それは、たまらず尋ねてしまった言葉。
これで最後にしようと決めた。これで人に期待するのはやめよう。ありもしない事を望むのはやめよう。もうこれが最後ーー、



「俺と君が出会った事に意味は生まれる」

「はい……え?」


……今、何て言った?


彼の瞳を見つめると、私の気持ちが彼に届いたような気がした。



「君が望むなら、それは現実になる」



だって、彼は灰色の瞳に私を映して、優しく微笑んでいたから。


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