ここに在らず。


「…なんだ?」

「…い、いえ、なんでも…。ただの勘違いです」


ーー家を出て二人で歩いている途中、つい私の口からこぼれていた声に反応したナツキさん。そんな彼になんでも無いのだと首を振ると、「そうか?」と、彼は首を傾げて答えて…どうやら、心配になったらしい。

「やっぱり車で行くか?」なんて、申し訳ないけれどまったく見当違いな心配をしてくれながら、私の顔を覗き込んでくる。


昨日の話の中で、トウマさんの家から学校までは徒歩20分程はかかるからと、ナツキさんは車で行こうと提案した。でも
流石に…いくらなんでもと、私はそれを断ったのだ。高校生の車通学なんて聞いた事も無いし、何よりこれから一人で通うようになった時、その時は勿論車なんて使わない訳だ。それに20分くらいの距離ならばちょっとしたお散歩くらいの距離でちょうど良いのではとも、あまり外に出た事の無い私には思えた。


「あの、本当に大丈夫です。もしダメだったら言いますね、そのためにナツキさんに一緒に来て頂いた訳ですし」


そうナツキさんを安心させるように私が告げると、ナツキさんは少し疑わしげにしながらもなんとか納得してくれたようだった。そして、私達は何事も無かったかのようにまた歩みを続ける。


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