ここに在らず。


いつの間にか彼の顔からは笑顔が消えていて、ピタリと止まった彼のその表情は、まるで凍りついたかのように無表情だった。


…何?どうしたの?


それは彼と過ごすようになってから初めての事で、私にはどういう状況なのか、どうすればいいのかがさっぱり分からなかった。何?どうしたの?そんな言葉だけが何度も頭に浮かんでは消え、また浮かんでは消えを繰り返し、何を発すればいいのかすら分からない。

…もしかしたら、声を発せない程の空気がその場に、漂っていたのかもしれない。


「…つまり、サエはアルバイトなんてする必要が無いと、そういう事だ」


それは、急に聞こえて来たように感じた。

いつもの声、いつもの表情のトウマさんが私に告げる。まるで何も無かったかのようにそう告げる。私はその声にぼんやりとしていた頭が覚醒して…今告げられた言葉の意味を確認した。

きっといつもの私だったら、この流れも空気も含めて、そこで頷いて終わっていただろうと思う。でも…でも、私にだってやっぱり、変えられない想いがある。私だって…ここで呑まれる訳には、いかないんだ。


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