ここに在らず。


完全に夢だと確定している。現実でこんなに都合よく毎回会える訳がない。でも私は会うその度に『お時間頂けますか?』と彼に尋ねた。何故かはよく分からないけれど、でもそれを言う事の方が自然に感じた。敬語が染み付いているからだろうか。


「…トウマさんは、敬語がお嫌いでしょうか?」


私はトウマさんに尋ねてみる。するとトウマさんは怪訝そうに私を見つめて「何故?」と尋ね返してきた。


「いえ、あの…私、小さい頃にですね、お祖母様から敬語も話せないのかと叱られた事がありまして、他人様と話す際には敬語を使えと躾られてきたせいか、その、誰と話すにしても敬語でないと上手く話せない…というか、敬語でしか話した事が無くてですね?」

「あぁ」

「だから、その…いや、敬語でも結局上手く話せないのですが……もし、ですよ?もしですが、トウマさんがお嫌いだとしたら、これも変えた方が良いよなぁと思いまして…」

< 72 / 576 >

この作品をシェア

pagetop