ROMANTICA~ロマンチカ~
涼輔の冷ややかな答えに声を詰まらせる。

黒いお仕着せの胸ポケットから白いハンカチを取り出す。

目頭を押さえる。
 


目の下に当てたハンカチごしに、原島は窓ガラスに映る涼輔の表情を観察していた。


 
涼輔のこめかみが微かに動いた。

歯ぎしりをしたらしい。



後もう一押しだ、原島は思った。
 

「千住様と社長の約束など、十年以上前にしたものです。

無効にすることだってできたはずです。

しかし、坊ちゃまはそうなさらなかった。

都季様があなたにとって、ただの虫除け以上の存在であることを、わたくしは良く存じ上げております。

いい加減、意地を張るのをおよしになったら……」
 

「わかった。もう十分だ」
 

涼輔がくるりと振りかえり、原島の言葉をさえぎる。
 

「それに、嘘泣きはよせ」
 

その声には、いらだちと決まり悪さが滲んでいた。
 
素知らぬ顔を通す原島。
 
涼輔は顎に手をやり、思案顔だ。
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