歪み

ぎり、奥歯を噛み締める。
何だよそれ。
今更そんなこと言うなよ。
あの頃と変わらない壊れそうな瞳に
涙を溜めて小さな手を握り締めて…


変わったのは瑞穂じゃない。
俺だ。



見失って逃げていたのは俺だ。
もっと早く瑞穂の話を聞いていれば…。
そんなこと言って何が変わるんだよ。
頭に浮かぶ橘さんの泣いていた顔。

あの時無理にでも…いや駄目だ。
そんなこと考えたところで何も変わらない。
それにもう届かない。
傷つけてしまっただろうし。


俺と付き合って傷つくよりましかもな。
何て、ね。

「有…?ごめん、引いたよね。
今更しつこいよね」

この事を言うためにどれ程の勇気を
振り絞ったんだろうか。
小さく白い腕に
赤く爪の痕が残っていた。


昔のように手を伸ばし溢れ出た涙をすくう。

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