千恋☆ロマンス Ⅱ



「恋人然り仕事然り……人のものを取るのが、一番嫌われるって知ってたか?真白ちゃん。」



現れたのは黒いベールに黒いドレスの女性だった。


その手には、さっきの鎌とまったく同じ鎌を持って。



「まさかあなたが邪魔してくるなんて、思ってもいませんでした。」



どうやら、真白というらしい少女はチャッと鎌を背中にしまう。



それを見届けて、ベールの女性は鎌をしまった。……手の中に。




「暁様の命令?」

「私が動いてるんだから、そうでしょうね。」




呆然とする私達に、真白はやはり無表情で言う。



「……教えてあげます。この剣は天命府の秘宝、ハルカゼのイミテーション、偽物。

ハルカゼは、切るものの存在をまるごと世界から消せます。例えイミテーションであろうと、その威力は人間相手には劣りません。」


「天命府の目的は、あなたの存在を消すことですよ。神内明希。」





「俺?!」

『何で……?!』





「あんまり聞かない方がいーよっ。」


突然聞こえた声に全員の視線が、入口を向いた。


聞きなれない声。


そこには、小学生位の男の子が笑顔でたっていた。


「紫呉?おい、なんでここにい……」










「天命府に下手に関わると、本人も消されかねないって、志紀様が言ってたから。」



美鞠ちゃんの声が遮られた。


周りを囲うのは結界。


『誰?』


近距離で少年を見ると、凄く美形な子だなって思った。


初めて見たけど、きっとオッドアイって言うのかな……目の色が左右でちょっと違う。


ガラス玉みたいで、

一度見たら、もう人を引き込んで目を逸らさせないような綺麗な目。



「紫呉だよ。今日は神内永遠子にどちらか選んでもらおうと思って。」


えっとねー、と紫呉君は人差し指を唇に当てて、こてんと顔を斜めにする。



可愛い……。

美鞠ちゃん並に癒されるよ、この子!







「志紀様に一生関わらないで生き続けるか、今僕に殺されて、志紀様の目の前から姿を消すか。どっちがいい?」



口から出たのは、癒しからは程遠い言葉だったけど……。



『あの、別に志紀に関わりたくて関わってるんじゃないよ?』


「はい、殺す。」


『ちょ、紫呉君!私関わるなんて言ってないよ?!』


「その、何もしなくても志紀様が関わってくる的な言い方が許せないんだよ!」


『割と事実……だよ?そ「チッ!」』




盛大な舌打ちが……。


あれ、何か悪い事……しました?



目の前の可愛い少年はきっと私を睨む。


「うっざ!僕だって……会いたいのに……」


『うんうん。』



分かるよ、あれだよね。


上の子が赤ちゃんにお母さん取られて寂しいって奴だよね。


うんうん。分かってるよ、紫呉ちゃん。




「何その目。」


『いや、紫呉ちゃ……君、健気な子だなって。』



やばい、心の声が、と思ったが最後。


「紫呉ちゃんっていいそうになったでしょ!まじウザい!!」


本気で怒った紫呉ちゃんが立っていた。



「僕は、元黒羽屋の影使い、紫呉だよ。」


『元?』


「さようなら、神内永遠子さん。」



四方八方から真っ黒い影が波のように押し寄せる。


取り敢えずそれを遮ろうと行動を起こそうとした瞬間、その影は一斉に消えた。



あれ……私、何もしてないよ?




「なんで……結界の中に入って?!」



紫呉ちゃんの視線の先には、さっきのベールの女の人と、二人の男性が立っている。


扇子で顔を隠しているから見えないけど、一人は強そうな筋肉質な人。

もう一人は紫呉ちゃん位の身長の人。


体つきからして……うん、男性。




「この混乱の隙にこの子に手を出そうと思ったみたいだけど、私にとっては、神内明希よりも神内永遠子が優先事項なのよ。」


一昨日来なさいと女の人が言うと、紫呉ちゃんはぱっと消えた。



『あの、紫呉ちゃんは……?』


「結界の外に放り出しただけ。安心して。……梢、桐。手伝いなさい。

戻してあげる。お祭りに。」



『え?』


「折角来れたんでしょう?」



「一応これ、禁じられてるからなぁ?」

「あは、特別ってやつだよ。日々面白い運命を作り出してくれる、永遠子ちゃんに。」








「永遠。またいつか、一緒にお祭り行けたらいいね。」



ふわっと優しい風が吹いて、ベールが巻き上がった。



『あ……っずさ……?』














「とわっちゃーん?」

「永遠子?」





視界いっぱいに、ハルと皐月の顔が見えた。





『あれ……?皐月……?ハル……?……美鞠ちゃんは?志紀は?』



そう言うと、二人はきょとんとする。



「志紀が来てるのか?」


「もー、どうしたの?さっきからぼーっとして。3人で来てたんだよ?」



そうだっけ……?



うん、そうだった。



ハルと皐月がうちにやってきて、可愛い浴衣をくれて……



「……そうだよね…?」



あれ……?


私の浴衣って、水色だっけ?








「ごめんねぇ、れーくん。折角のドラマチックな告白、消えちゃったよ。」


美しき少女は、美しき片割れを思い呟いた。




梓side



一足先に帰った梓と玲くん。


だけど、天命府の気配を強く感じた。


そこには紅月がいて、明希ちゃんがピンチで。



もともと明希ちゃんを消すのが梓の仕事だから、消してもらって全然良かったはずなのに。



「やっぱ永遠の影響、受けすぎだよねー。」



あの子の心からの笑顔を消したくないから、梓はきっと明希ちゃんを消す事は出来ない。



それよりも、あの紫呉とかいう志紀様シンパ。


過激そうだし、下手に残しておくと永遠が危険になるかもしれない。


「消しておくべきか……?」




まぁいっか。


窓の外をそっと覗くとこんなに綺麗な月の夜。


無粋な事は全部忘れて、綺麗な物を愛でようか。




「紫織王……いいえ、玲様。いつになったらアズサの事、思い出してくれますか?」






月の綺麗な夜には─────



───────あの方の笑顔を思い出す。






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