恋人を振り向かせる方法


「愛来、今夜はいつもより感じてたじゃん」

敦哉さんは、まだ呼吸が乱れている。
ベッドに仰向けになったまま、一つ深呼吸をしていた。
そんな敦哉さんの胸に手を当て、体を寄り添わせる。

「感じるに決まってるでしょ?だって、敦哉さんに好きって言ってもらえたんだから」

可愛く言えたら良かったのに、照れ隠しで素っ気なく言ってしまった。
だけど、そんな事は敦哉さんにはお見通しなのか、優しく頭を撫でられたのだった。

「俺も感じた。だって、抱いてるのが愛来だから」

言葉を口にすればするほど、敦哉さんには負けていく。
どんなに応戦したところで、最後には敦哉さんの言葉に、心を鷲掴みにされるのだから。
もう大人しく隣で眠っていよう。
目を閉じた私に、敦哉さんは声をかけてきたのだった。

「なあ、愛来。高弘の話を覚えてるか?」

「従兄弟の人よね?呼ばれてるんだっけ?」

せっかくの敦哉さんとのセックスの余韻が、あっけなく飛んで行ってしまった。
私の中では、高弘さんイコール海流に繋がるからだ。

「実は、奈子との事も踏まえて話があるって言われてるんだ。愛来には悪いんだけど、また一緒に来てくれないか?」

「奈子さんとの事も?」

わざわざ従兄弟同士で話すなんて、政略結婚というのは、そんなに大変なものなのか。
普通のサラリーマンの娘である私には、まるで想像もつかない。

「愛来を巻き込むのは心苦しいんだけど、愛来は俺の彼女だから•••」

「分かった。要は、私がいた方が話が進めやすいんでしょ?今さらだし、一緒に行くよ。週末でいいの?」

私だって、知らないところで敦哉さんの結婚話が進められてはたまらない。
お互い想い合えているなら、もう遠慮する必要はないのだから。
言いにくそうにする敦哉さんの言葉を遮って、OKの返事をしたのだった。
すると、敦哉さんは安心した様に小さく息を吐いた。

「ありがとう。愛来の事は俺が絶対に守るから、それだけは心配するなよ?」

「うん•••」

信じている。
敦哉さんは、今までなんだかんだ言っても、本当の事を話してくれたのだから。
私を利用した事も、告白をラッキーだと思った事も、ちゃんと話してくれた。
だから、今夜の言葉も嘘はないと信じる。

「愛来、少しだけキスしていい?」

時々甘えてくれる敦哉さんが、愛おしくてらたまらない。

「うん。いいよ」

そっと唇を重ねる敦哉さんは、しばらくキスを続けた。
どれくらい続けるのだろうと思っていたら、結局はもう一度体を重ね合うきっかけになっただけだった。
私の上で息遣いを荒くしながら、敦哉さんは言った。

「もう一度やりたくて、キスしてみたんだけど、成功した」

イタズラな笑顔を浮かべる敦哉さんに、私も吹き出すしかなかったのだった。
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