恋人を振り向かせる方法
それは、どういう意味なのだろう。
高弘さんの言い方は、まるでそれでは敦哉さんには都合が悪いと言っている様なものだ。
すると、敦哉さんは明らかに顔色を変えた。
それも、怖いくらいの険しい表情に。
「奈子が高弘と?そんな訳がないだろ?」
すると、高弘さんは鼻で笑ったのだった。
「だって、お前が結婚してやらないんだから、仕方ないだろ?向こうは、奈子を新島グループ総帥夫人にさせたいんだ。お前が跡を継がないって事は、奈子は俺と結婚するって事なんだよ。どっちがいいんだ?彼女の手前、跡を継がないってポリシー貫くか?」
そう言って高弘さんは、私に目を向けた。
どことなくバカにしている顔だ。
それにしても、含みのある言い方が気になる。
もしかして、敦哉さんは奈子さんを好きだったのか?
高弘さんの言い方は、それを疑わせるものだった。
「高弘、言い方には気をつけろよ。それより今日は、その話でみんな集まってるのか?」
敦哉さんは不快感をあらわにして、高弘さんを睨んでいる。
「ああ、そうだよ。いい加減、決着つけようぜ敦哉。いいですよね?伯母さん、俺が跡を継いでも」
高弘さんは、敦哉さんのお母さんへ目を向けた。
それも挑発的な態度でだ。
「そんな簡単に、『はい、いいですよ』と言える事ではないでしょう?」
冷たい視線の敦哉さんのお母さんは、鼻で笑って一蹴した。
すると、それに反応したのが高弘さんのお母さんだった。
お金持ちの奥様といったブランドづくめの格好だ。
「ですけどお義姉さん。敦哉くんは跡を継がないと言っているんですから、このままではいつまでも平行線のままじゃないですか。いい加減、決断して頂きたいですわ」
またもや繰り広げられる修羅場に、今回は私の立場がない。
困惑する敦哉さんに、高弘さんは言い放ったのだった。
「どうする?敦哉。それでも継がないというなら、この場でハッキリ言った方がいい。伯父さんだって、いい加減跡取りを教育したいんだ。この問題を、早く解決したいと思ってるんだよ」
そうか。
ここで、敦哉さんが言い切ってしまえば、事は前に進むのかもしれない。
だけど、いつもの威勢のいい敦哉さんとは違い、すっかり黙り込んでしまっている。
すると、高弘さんが大きくため息をついたのだった。
「ほら、やっぱり迷うんだろ?彼女も可哀想にな。騒動に巻き込まれた挙句、恋人は他の女との結婚に傾き始めたなんて」
すると、敦哉さんは感情を剥き出しにして、高弘さんの胸倉を掴んだのだった。
「相手がお前だからだろ!何で奈子の傷をえぐる様な事をするんだよ!」