恋人を振り向かせる方法


「愛来を想ってもない彼氏なんか、さっさとフってしまえよ」

そして海流は私の手を取ると、引っ張った。

「久しぶりに行こう。俺たちの思い出の場所へ」

「えっ!?海流、ちょっと待って」

雑踏をかき分けながら、私は海流に引っ張られるまま、夜の街を走り抜ける。
まるで学生の頃に戻ったみたいだ。
海流が言う『思い出の場所』とは、中心部を抜けた先にある岸壁の事。
もともとは、小さな国内線専用の空港だった場所だ。
それが今はヘリポート専用になり縮小されている。
その縮小された部分が、デートスポットとなり、静かに海の景色を眺められる場所として人気になっているのだった。

「海流、走って行くのは無理よ!」

さすがに息が切れてくる。
ほとんど叫ぶ様に言うと、海流は突然路地を曲がり、立ち止まったのだった。

「あ、あれ?コインパーキング?」

目の前にはコインパーキングがある。
呆気に取られている私に、海流はニヤリとした。

「誰が走って行くかよ。車だよ、車。5番が俺の車だから、先に行ってて。俺は精算してくる」

「う、うん」

なんだ。
最初から、車のつもりだったのか。
突然走られたから、驚いてしまった。
それにしても、相変わらず海流の行動は唐突だ。
息を整えながら5番へ行くと、見慣れない車が停まっている。

「海流、車変えたんだ?」

付き合っていた頃は、黒いスポーツカーだったのに、シルバーのセダンタイプに変わっていた。

「ああ、さすがにスポーツカーってわけにはいかないからな」

精算を終えた海流は、車のキーを開ける。
助手席に乗り込むと、一番最初に目に飛びこんだのはシルバーのドリンクホルダーだった。
運転席と助手席、それぞれに置かれている。

「海流、彼女いる?」

海流に片想いをしていた頃、彼女がいるか分からず不安で、友達に相談した事がある。
その時言われたのが、車のドリンクホルダーを見る事だった。
二つあれば彼女がいる。
そう言われて車を覗くと、ドリンクホルダーが置かれていなくて、安心した記憶があるのだ。
それ以来、妙にドリンクホルダーを意識してしまう。
すると、海流はエンジンを掛けながら答えたのだった。

「いたよ、3ヶ月前までは。だいたい、いくら俺でも彼女がいるのに、愛来に会いに行くような事をするかよ。見損なうなって」

「ごめん•••」

小さくなった私に海流は吹き出すと、ハンドルを握っていない方に手で、私の手を握った。

「この車から、オートマ車に変えたんだ。片手が空くっていいな。どうせなら、愛来と付き合っている時にするべきだったよ。そうすれば、こうやって、運転しながら手が握れたのに」

「海流ってば、何言ってるのよ」

照れ隠しで顔を車窓へ向けた。
それにしても何て海流の手は、あの頃と変わらず温かいのだろう。
敦哉さんと比べると華奢だけれど、それだけしなやかだ。
小さく握り返すと、海流は一瞬私に視線を向けた。

「何であの時、愛来の手を離したんだろうな。分かってたんだよ、俺が悪いって。だから、別れを告げられた時に、何が何でもすがれば良かったんだ」
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