第1章・海に沈む








波の音がした。
ザァザァ…と寄せては引き足元にある砂をさらってく。

空は今にも雨が降りそうな暗く澱んだ曇天で、まるで黒い絵の具をそのまま塗ったようだ。

青い海は先にいくにつれ靄がかかっていて先が見えない。

けれど水平線の向こうには、何か白い光のようなものがあって、不思議と引き寄せられてしまう。

その光に向かって、どこからか現れた何人かの人間がラフラと、しかししっかりとした足取りで歩を進めていた。

人の顔にも靄がかかっているのかのように、先に進む彼らがどんな人相をしてるのかさっぱりわからない。

ついには浜辺には彼一人になった。
バシャッと足元まできた波が音をたてる。
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