君の温もりを知る

強引な男



乱される。乱される。
ひどい頭痛がして、耳鳴りもする。


「どうかしたのかい?
気分でも悪いのかねえ?大丈夫?」

「ばあさん。それ、俺の連れ」


聞き覚えのある声に、意識を
引き戻される。

(こ、この声は…?!)


「あ、明日…?何でここに?」

「お前こそ何でここにいんだよ。尾行か」

「断じて違います」


数える程しか見たことない私服姿の明日が
そこに立っていた。

今の記憶も気になるが、
どうやらそれどころではなくなった。


「あら…明日ちゃんのお友達かい?」

「まあ、そんなもんだよ」

「明日、あんた…」

「その様子じゃ、特に用事もねえんだろ。
ほら、帰んぞ、貧乳」

「失礼な!一人で帰れます!」

「へえ、…道わかんの?」


そうだ。無意識にここまでやってきた
所為で道なんてちゃんと覚えてない。

無言を知らないという意味での肯定と
捉えたらしい明日は、私の手を掴んだ。


「じゃあばあさん、またな」


そうして明日は、その懐かしさも
覚える道を進んだ。

ひたすら無言で、でもしっかり歩幅は
合わせてくれている明日は、時折
周りの風景を慈悲深く眺めていた。

いつまでもその時間が続けばいい。

そう思えるほどに心地よい沈黙だったが、
私は聞かなくてはいけなかった。


「明日はここに、何をしに来たの?」


明日はそのまま視線はこちらに向けずに
独り言のように、呟いた。


「一目見たい人がいた」


"会いたい"のではなく、"見たい"人。

それが誰なのか、と
私なんかが聞いていいのか。
踏み込んでしまって、いいのか。

ようやく私の方を見た明日は、
私が踏み込む決断ができそうにない
ことを確認して、逆に聞いてきた。


「じゃあお前は、何でここに来たんだ?」

「だって、私…」


そこまで言って、本当に言ってしまって
いいのか、と。言ってしまったら、
この関係がくずれてしまうのでは、と。

急に、不安になった。


「いいから。言ってみろよ。
どうせ馬鹿なんだから考えたって
ろくに考えまとまんねえだろうが」


大丈夫だから。
その言葉が、私の背中を押した。


「私、明日のことなにも知らないから」


知らないだけじゃない。
明日は何か私に、隠している。


「ねえ、教えて…?」


恐る恐る明日の顔を見上げてみる。

どんな呆れて軽蔑するような顔かと思えば
その表情は、いつになく穏やかで
優しく、微笑んでいた。


「俺のこと、知りたい?」


今日一番にちゃんと向き合ってくれた
明日は、私にそう問いかけた。

私は、多少の不安も抱えつつ、
小さく頷く。

少しづつでいい。

明日のこと、ちゃんと知っていきたい。
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