唯一の涙

文化祭


文化祭当日。
私は皆から任された着付けの作業に追われていた。


瞬さんから教わって以来、何度も家で練習し、本番である今日を迎える。
着付け自体は簡単に熟せるものの、やっぱり一人で全員の着付けをするのは大変だ。


「ーーよしっ!次の人」


「頑張ってるじゃん!次、私ね」


そう言って桔梗の浴衣を手渡してきたのは、我が友の紀衣。
既に十人の着付けをしてきた私と違って、紀衣は元気満々で呆れてしまう。


いつものクールぶりはどこ行ったんだ……。
そう言いたい気持ちをグッと抑えて、私は浴衣を広げた。


「嬉しそうね、紀衣。中村先輩と約束してるんだ?」


「分かる?先輩ってば、私の浴衣姿みたいって言ってくれてるんだぁ〜!!」


薄く頬を染めながら話す紀衣は、恋する乙女そのもの。
冷やかす気にもならなかった。


手早く帯を結ぶと、紀衣の背中をポンと押した。


「着付けは完璧。んじゃ、小山くんに髪アレンジしてもらって来なよ、いつもの何倍も可愛くなれるから」


「いつもは可愛くないっての?」


紀衣は笑いながら私の額を小突くと、小山くんの方に足を向けた。


幸せそうな顔しちゃって、まぁ……。
偶には、幼馴染みのああいう顔を見るのも、悪くないな。


内緒で撮った紀衣の浴衣姿を保存すると、私は次の子を呼んだ。


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