唯一の涙

グローブの手入れをしていたらしい。
先輩はパパッとそれを片付けると、私に座るよう促した。



「先輩、話ってなんですか」



先輩はゆっくりと一つ、瞬きをすると、私と間一個分あけて座った。



「あと五ヶ月」



「え……」



「あと五ヶ月で、俺はこの町からいなくなる。もちろん当たり前だけど、お前とも会えなくなる」



真剣な眼だった。
私は黙って、先輩の言葉に耳を傾ける。



きっと先輩は、私の相槌を求めて話しているわけじゃないだろうから。



「普通なら、お前のことを想って距離を取ったり、別れたりするのが良いのかもしれない。だけど、そんなこと、俺には無理だ。そういう大人みたいな真似、絶対出来ない」



先輩は困ったように、小さく笑った。



まるで、泣き出してしまうのを必死に堪えているようで。
あんまり辛そうだから、眼を逸らしたくなる。



けど、ここで逸らしてしまったら、もう二度と先輩が私に本音をぶつけてくることはないだろう。



「遠距離になるけど、それでも良いなら、これからも俺と付き合って下さい」




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