唯一の涙

勢い余って、先輩のネクタイを掴んでしまった。



気づいて離した時にはもう遅い。
何本かの皺がくっきりと浮かび上がっていた。



あっちゃー、やっちゃった。
まぁ……いいか。帰ってアイロンあてれば大丈夫でしょ。



「それじゃ水野先輩。気をつけ「却下」はっ?」



「却下って言ってんだよ。俺が迎えに来てやるっていってんの。お前は黙って俺を待ってろ、分かったか?」



「……」



目の前には、先輩の整った顔。



いつの間にか肩を掴まれていて、ちょっと動いただけではびくともしない。
いや、どんなに暴れても無理だろう。



身長差なんて少ししかないのに、男と女の体力差はここまで大きいなんて。
不公平だ…こんなの。



「返事は?」



ぐっと睨まれた。
だけど私も負けじと睨み返す。



「い・や・です‼」



「お前なぁ……」



< 17 / 161 >

この作品をシェア

pagetop