花嫁指南学校

 理香は狭いダイニングキッチンに通された。配管工の彼氏はもう仕事に出たようだ。母親は夕方から近所の居酒屋で働いている。

 キッチンテーブルに腰を下ろし、母親は煙草に火を点けた。

「で、何のようなの」

 久しぶりに会う娘に対し母親は素っ気ない台詞を吐く。

「あたし、学校やめることにしたの。ここに署名とハンコをちょうだい」

 理香はバッグから退学届を取り出し、テーブルの上に置いた。
 すると、眠そうだった母親の表情が一変した。

「な、何ぃ! 学校やめるってぇ? あんたバカじゃないの!」

「あたし、本気だよ。もう決めたの。だからお願い。あとは親の了承が必要なのよ」

「学校やめてどうすんのよ。フリーターにでもなる気かい? 言っとくけどね。学校もまともに続けらんない娘をここで住まわせてやる気はないからね! どうせあんたのことだから問題でも起こしたんでしょ。悪いことは言わないから学長に土下座して学校にいさせてもらいな!」

「いやだ!」

 理香はきっぱりと言う。

「ナマ言うんじゃないよ、このたわけ者がぁ!」

 母親が理香の頭をはたく。

「やめてよ! 言っとくけど、あたしママの世話になるつもりはないんだからね! あたしは芸能事務所に入って、研修生の寮に住むんだから」

「はぁ? ゲーノージムショに入るだってぇ?」

 理香は母親に渋谷でスカウトされたことを話した。母親は吸っていた煙草を目の前の灰皿に押しつける。彼女は何か言おうとしたが右手を額につけてしばらく口をつぐんだ。四十を越えてもまだパッチリしている彼女の双眸は虚空を見つめている。
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