歪んだ曼珠沙華
そう言うと、麻美は真鍋の手を引っ張ると強引に腰を下ろさせていた。落ち葉が降り積もったそこは、まるでクッションのきいたソファーのよう。赤い曼珠沙華の花を腕一杯に抱えていた麻美は、その花をあたりにまき散らしていた。

色白の彼女が血の色を思わせる曼珠沙華の中に座っている。その姿は、どこか凄惨な雰囲気を与えないでもないというのに、彼女の口の端には変わらぬ微笑みが張り付いている。その姿に背筋がゾクリとした真鍋だが、逆らえないというような顔をして彼女の隣に座っていた。そんな彼の顔を覗き込みながら、麻美はクスクスと笑うだけ。



「麻美さん、話したいことがあるんじゃなかったんですか?」



麻美の態度に、気分を害したような真鍋の声が冷たく響く。しかし、彼女は気にする様子もなく首をすくめ舌をペロリと出すと、彼の表情をうかがうような上目遣いでゆっくりと口を開いていた。



「ええ、話したいことあるわ。このことは、誰かにきいてほしいんだもの」



そう言いながらも、麻美はすっと真鍋の顔から視線を外す。そして、彼女の周囲に散らばっている曼珠沙華の花を愛おしそうに拾いながら、言葉を続けていた。



「これを見ていたら、あの日のことを思い出すの」


「あの日のこと?」



麻美の口調が微妙に変化していることに、気がついた真鍋だが、それを指摘するよりも、彼女が話そうとしていることの方が気になって仕方がない。あたりにたちこめる金木犀の甘い香りがますます強くなっていき、二人の体を包み込んでいく。

その気配が秋の深まりを告げ、二人の目の前を赤とんぼがのんびりと飛んでいる。その中に広がる、血の海を思わせる曼珠沙華の絨毯とそこにたたずむ麻美の姿。あまりにも奇妙なアンバランスさを真鍋は感じているが、そのことを口にすることができない。彼は彼女が口にした『あの日のこと』という言葉の意味だけが知りたくなっていた。



「麻美さん、あの日のことって?」



なかなか話そうとしない彼女の様子にじれったさを感じた真鍋が、誘い水をかけるように問いかける。そんな彼の姿に、麻美はまた肩をすくめると視線をどこか遠くへとやっていた。
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