毒  ~サクラチル~

僕は今毒を手にしている。

ほんの少しだけ怖いけど・・・・・・大丈夫。


だって・・・


きっと・・・


そうでしょ?

ーーーーーーーーーーーーーーー。

僕はチェン。

僕にはとっても大切な人がいた。

大好きな人。

僕は極度の人見知りで、地方から都会の大学にやって来たけど、なかなか友人と呼べる人も出来ないでいた。

大学での生活を始めてから、半年が過ぎようとしてたとき、いつもとは違う帰り道を選んでみた。

すると小さなお弁当屋を発見した。

もちろん僕は一人暮らし出し、自炊もするけど、お弁当屋は一人暮らしの強い味方だ。

『よし。今日はここで買っていこう』

僕はお弁当屋の暖簾をくぐった。

すると、元気のいい声で

「いらっしゃい」

カウンターを見ると、見るからに優しそうなお兄さんが笑顔で迎えてくれた。

「初めてのお客さんかな?」

『は・・・・はい』

「ほらっここって裏道にあるでしょ。だから常連さんが多いんだよね」

屈託ない笑顔で言うから、僕もなんだかつられて

『そうなんですか』

と答えていた。

「お薦めはシンプルだけど、唐揚げ弁当で、幕の内も人気あるかな」

僕も唐揚げが大好きだったから

『じゃ唐揚げ弁当で』

「はい、毎度。唐揚げ1つ~~」

大きな声が響いた。

暫く待って、唐揚げ弁当を受け取ると

「また来てね♪」

『はい』

こうして僕はこのめっちゃ美味しい弁当屋に通うことになる。


そしてこれがスホ兄さんとの出逢いだったんだ。


それから僕はほぼ毎日この弁当屋に通っていた。

スホ兄さんとは何だか気が合って話も弾んだ。

スホ兄さんが言ったその一言から、僕達は急激に親しくなっていったんだ。


「今日は早くあがれるんだけど、飲みに行かない?」



兄さんとは2つ違いだった。

色んな事を語り明かした。

ある時、兄さんの夢を聞いたんだ。

『僕、いつか自分の店を持ちたいんだ。でチェンも一緒にやらない?一緒に出来たら楽しそうかなって』

そうしていつしか僕の中で兄さんはなくてはならない人になっていた。

こんな想い男同士で感じるなんておかしいってわかってるんだけど、どうしようもなかった。

でも決してバレないようにしなきゃ・・・

嫌われたくない・・・・・・・・・。



あっという間に二人が出逢って半年が過ぎた。

桜がちらほら咲き始めたとニュースが流れる季節になった。



今日は大学で試験があって暫く会っていなかった兄さんに会える日。

僕は大学の授業を終えて、兄さんと待ち合わせした店に急いでいた。

僕が歩道橋を降りたとき、調度反対側に兄さんの姿が見えて

『兄さーーん』

回りも振り向くくらい大きな声で手を振ると、兄さんも少しビックリして恥ずかしそうに手を振った。



僕はただ・・・・・・

兄さんのそばに早く行きたくて・・・・・・

ただ行きたかっただけなのに・・・・・・



僕はガードレールを超え道路を横断しようとしたとき

兄さんが何か叫んだように見えて

『何?』って言いながらほんの一瞬よそ見をして渡ってたら


キキーーーーー

バンッ

って音がしたと同時に僕は後ろに飛ばされてた。

一瞬何が起きたかわからなかったけど


目の前に


兄さんが倒れてて


一面に血が広がって・・・・・・


「チェン・・・大・・好き・・・」


駆け寄った僕にそう言って目を閉じた。


兄さんは直ぐに病院に運ばれ、一命はとりとめたけど、目を覚まさなかった。

角を急スピードで曲がって来た信号無視の車のせいだと、あとで聞いた。

・・・違う。

・・・・・・僕のせいだ。

・・・・・・・・・・・・僕のせい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕の。


『僕のせいなんです。僕を庇おうとして・・・・・・』


兄さんの両親に僕は涙で声にならない声を絞り出した。

「君がチェン君?スホが一緒に弁当屋やるんだって・・・」

「そう。君を守って・・・・あの子らしい・・・君の事大好きみたいだったから」


怒鳴ってほしかったのに。

罵声を浴びせてほしかったのに。

僕のこの気持ちはどうすれば・・・・・・


誰か助けて。


兄さん助けて。



それから毎日病院に通ったけど、一ヶ月後兄さんは二度と目覚める事は出来なくなった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕は今兄さんの墓に来ている。

あれから僕は兄さんとやろうしてた弁当屋のためにがんばったりしたけど

ごめんね。

もう無理だよ。

兄さんのいない世界で生きてくなんて

兄さん、最後に言ってくれた

「大好き」って

あれどういう意味?

聞きに行ってもいいかな?

きっと兄さんは怒ると思うけど

逢いに行ってもいいかな

ーーーーーーーーーーーーーーー。

次の日の朝、毎日のように墓石に舞い落ちる桜を掃除に来た住職が墓の隣で、まるで墓を抱えるように倒れている男を見つけ

「こんな所で寝ないで。風邪引きますよ」

と男を揺すったが、

男は起きることはなかった。


けれどその顔はとても穏やかだったという。







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