こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—



 刃を振り切って数秒後、地面に重いものが落ちる。
 長い胴体は頭が落ちた後も波打つように暴れていたが、やがて動かなくなった。


「……なぁんだ」


 フィリアムは剣に付いた血糊を払いながら独りごちる。


「思ったよりあっけなかった……っていうのかな……?」


 フィリアムは剣を握った自身の手を見つめる。しかし、その台詞に似合わず、手は小さく震えていた。
 震えを押し殺すように手を握り込む。
 
 赤浪が恐ろしくないだけなのか。それとも自分が強いのか。
 今迄に経験が無い分比較すべき事柄が見つからない。


「魔法陣使う暇なかったじゃーん」


 自分が殺した。その事実を隠すかのようにフィリアムは恍けた声を出す。

 フィリアムはしゃがみこんで、今や光の失った赤浪の瞳を覗き込む。


「ねぇ……私は強いのかな?」


 返事なんて返ってくるわけがない。
 自分が殺した物に話しかけるなんて狂気の沙汰のようにも感じる。
 返事なんて来るはずもないのに待つ。
 だけど、やはり返ってこなくて諦めたその時。
 視界が白いもので埋め尽くされた。
 鼻先にツルリとした冷たい物が触れている。



 何が起きたのか理解できなくて一歩下がった時、それと目があった。



 赤浪と同じ赤い瞳。同じ長い胴体。

 それが七つある以外は、大して変わらない。




 特徴はその額に浮かんだ七本の赤い筋——

 


「は……破赫(はかく)!?」




 それはのっそりと体を起こすと何かを嚥下した後、フィリアムを見下ろす。

 その喉元にあるデカイ膨らみが下に向かって動くのを見て、赤浪は喰われたことを知った。




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