こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—
フィリアムのは単なる八つ当たりだ。
自分が変な気をやらずに、家に帰っていれば気付いてたはずなのに。
ようは。
「……私のせい」
そういうことなんだ。
その後のフィリアムの動きは早かった。
「フィリアム!?」
エルダンが叫んでいる間にフィリアムは地面に足をつけていた。そのまま家へ向かって走る。
ドアを跳ね除けるように開けると、古い家だからギシッと揺れた。
その音はまるで悲鳴のようだった。
「お父さんっ!!」
またまた寝室へのドアを力任せに開けると、呆気に取られた目が二つこちらを見ていた。
しかし、フィリアムの視線は迷うことなくお父さんの腹へ向かっていた。
——考えれば、お父さんとお風呂に入ったことなんてなかった。
初めて見たお父さんの腹には、無数の傷があった。
その中でも一際目立つ、平行に並んだ赤黒い二本の傷跡。それは肩口から臍の辺りまで続いていた。
「——ごめんなさい」
その傷跡はあまりにも痛々しくて、自分がしてしまったことの重さを、無理矢理理解させるほどの衝撃があった。
自分のくだらない自負のせいでお父さんが怪我をして……申し訳なくて、申し訳なくて——謝っても取り返しのつかないことは分かってる。
けれど、謝る以外にしていいことも見つからなくて……結局、お父さんの膝に縋って謝ることしかできなかった。