だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「あの・・・っ!」


「いいから黙ってろ」




そう言って私を抱えて立ち上がった。

お姫様だっこなんて、恥ずかしくてたまらなくて。



けれど、軽い力でひょいと持ち上げられた身体は、抱えられた腕の中にしっかりと収まっていた。




「お前の心配をして何が悪い」




きっぱりと言い放った櫻井さん。

その強い言葉に何も言えなくなってしまった。

私の方を見ようともせずに給湯室の入り口に向かう。



ぐっと手に力が入るのがわかった。




「心配くらいさせろ。無理させてたのは、俺のほうなんだ」


「そんなこと・・・」




すっと目線がこちらを見つめる。

申し訳ないような、心配が滲んだ瞳が揺れている。

そんな顔をされてしまったら、どうしていいかわからなくなってしまうのに。




「だいぶ辛いだろう?俺に身体を預けていいから」




さっきまでの鋭さがなくなって、柔らかな声で囁く。


それでも伝わってくる、大人の男の人の力強さ、有無を言わせない言葉の強さ。


様々なものが全て自分に向けられていることが、私をより苦しくさせた。




温かい体温。

支える逞しい腕。

線の細い、それでも肩幅の広いしっかりとした身体。




その一つひとつに心が揺れる。

この人のことを意識している自分がいる。

心臓の音が伝わる距離にいることが、とても苦しい。




歩くたびに揺れるその身体に、そっと頭を寄せた。

そんなことはお構いなしに、櫻井さんが足を進める。

ゆっくりと、私を気遣いながら。




感じる温かい体温が、私の身体に熱を分けてくれていた。

白い光が薄くなっていくけれど、眩暈はまだ続いていた。




この眩暈が貧血によるものかどうか、今の私にはわからなかった。




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