だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版

御褒美...ゴホウビ






舞台袖から廊下に出たところで森川が私を待っていた。

じっと見下ろされて、森川はぽんと私の頭に手をのせる。

じっと見つめられていたので少し不思議な顔をしてみせる。



その時、化粧を直していないことに気が付いて慌てて俯く。

目元にマスカラがついていないか指で拭って確認していると、森川がぐっと私の顔を持ち上げた。


こっちを向け、というように力強いその手に導かれてしっかりと目を合わせる形になった。




「お疲れ様」




そっと私に向かって言いながら、目元をぐっと拭う森川の指。

化粧直しもしないまま見つめられるのが恥ずかしいのを、森川は考えてくれないのかな、と思った。

やっぱり、まだまだ櫻井さんの域ではないらしい。




「森川もお疲れ様。それと・・・化粧直ししてないから、恥ずかしいんですけど・・・」




ちょっと目を伏せながら森川に伝える。

森川の目元を拭う指があまりにも優しいので、恥ずかしさが増している様に思う。




「いつもすっぴんのくせに、何を今更」




それとこれとは違うの!



森川にその違いを伝えるのは難しいのかも、と諦めて軽く息を吐いた。

それを見て指が止まる。




「冗談だ。珍しい顔が見れたから、ちょっと覗いてみただけだ。第二本部に戻るぞ」




確かに自分でも、涙が出るなんて思いもしなかった。

普段では見せない顔も、こんなところではあっけなく出せてしまうことに驚いていた。




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