だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





ねえ、湊。

小さな傘の中で、

私たちは二人だけの世界を

見つけたと想ったの。



それは、

間違っていたのかな。

いけないことだったかな。




ただ、好きなだけ。

ただ、いとしいだけ。




ただ、忘れたくないだけ。




あの夏の終わり。

やっと心が触れ合ったのに、終わりが近づいているなんて。

私は、想いもしなかったの。

だから、涼雨が連れてきた寂しさに、呑まれそうになっていたのかな。



もっと、ずっと。

一緒にいられると想っていた。




「湊は、もういないんだよ。あの時、見送ったじゃないか」




私を抱き締める腕が、震えていた。

きっと、櫻井さんも泣いていた。








「・・・死んだ人には、敵わないじゃないか」








そうね。

それもわかってる。




あの秋晴れの日。

私たちは車に乗せられていく白い棺を、確かに見送っていた。

みんな泣いていた。



でも、私は泣けなかった。

だって、つい一昨日まではそこにいたんだもの。

私の名前を呼んで、大丈夫って笑ってたんだもの。

時雨って言って、髪を撫でてくれたんだもの。




ダメだと言ったのに、消毒液の匂いをさせてキスをねだっていたんだもの。




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