だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
『・・・化粧品売り場に。デパートとかで構わないから』
「え・・・?」
『そんな驚くなよ。他に頼めるヤツなんて、中々いないからな』
「あ、あぁ。うん。いいよ、大丈夫」
『悪いな』
森川が?
化粧品?
意外な組み合わせに目が点になったが、一人では行きづらいので私について来て欲しい、というところだろう。
仕事の電話ではないけれど、広告の勉強の為に行きたいのだろうということが容易に汲み取れたので、何も言わずにおいた。
待ち合わせの時間を決めて、手短に電話を切る。
勉強熱心な森川のことだ。
オータムフェアに向けて、新商品のパンフレットや今の広告のコンセプトを見ておきたいというところだろう。
かといって休日にスーツを着るのも面倒で、誰か連れて行こう、というような気持ちに違いない。
それにしても。
説明ベタというか、口下手加減はどうにかならないものか、と考える。
それでなくても少し近寄り難い雰囲気があるだろうに、あの言葉足らずな感じは、近寄り難さに拍車をかけているように思えてならなかった。
そんな森川の扱いに慣れている自分は、まるで長年連れ添った夫婦のようだ、と思う。
そして、そんなことを考えた自分に対して、小さな笑いが込み上げてきた。
有り得ない、と想って。