砂漠の夜の幻想奇談
「貴様……指が落ちるぞ…?」
「サフィーアが目の前から消えるよりもマシだね。俺の指くらい喜んでくれてやるさ」
この会話を耳にして、サフィーアが黙っているはずがなかった。
(シャール…!)
部屋の隅にいた彼女は二人に駆け寄ると、刃にやられ血が滲んでいるシャールカーンの手にそっと触れた。
(シャール、放して!このままじゃ、本当に指が!)
目で訴えるも、シャールカーンは微笑むだけで放そうとはしなかった。
むしろ、よりいっそう強く握り締め、カシェルダの胸元まで力任せに押し返す。
「――っ!!」
それを見て思わず叫びそうになったサフィーアの口を、すかさずカシェルダが片手で塞いだ。
「姫、声を出してはいけません。それから、お前」
仮にも一国の王子であるシャールカーンに対し、全く敬意を払わずに「お前」呼ばわり。
そんな厚かましいことこの上ないカシェルダに苛立ちを覚えたシャールカーンだったが、彼の次の言葉に目を点にした。